ボケる方法

岸政彦の「図書室」(新潮社)は大阪に住む50歳の中年女性が,自分が10歳くらいのときの公民館の図書室で過ごした日々を回想する小説である。

そのなかで,ボケる方法についての主人公と男子小学生の会話があって,おもしろい。すこし長くなるが引用する。会話は男子小学生の,太陽が膨張して地球が滅亡するというウンチクに関するものである。

「熱いなそれ」
「熱いやろな。めっちゃ熱いと思うわ。飲み込まれるはるか前に,もうめっちゃ暑なんのちゃうかな地球。いまより十倍くらいのやつが空に昇ってくるねん」
「今日めっちゃ寒いからちょっとおっきなってほしい」
「せやな。でも何千度にもなるで」
「わかってるやんか。ボケたんや。こないだ教えたやろ。いっかい乗るねん」
彼は真面目に,あっそうかごめん,と言って,言い直した。
「ほんまやなー,今日寒いから太陽おっきなってほしいな。って,死ぬわ!」
「死ぬまでが早い! 死ぬまでが早すぎ!」
「どうしたらええねんな」
「もっと途中で,そうそう,おっきなって温度上がって,何百度とかになって,って言ってから,死ぬわって言わんと。いきなり死んだらあかん」

大阪の小学生だからこそ成立する会話であろう。いまではテレビで毎日芸人がボケまくっているから,誰の耳にも親しみを込めて聞こえるが,ボケる会話はそうそうできるものではない。

私も生涯,一度もボケたことがない。

(2019年12月15日 日曜日 晴れ)