うつ病九段

最近は藤井聡太七段の活躍もあって,将棋を鑑賞する機会が増えた。先崎学九段の「うつ病九段」という書籍を手にとるようになったのも,そのような流れからかもしれない。

うつ病は現代ではたいへんポピュラーな病気である。うつ病で苦しんでいる人の手記をブログなどでよく見る機会がある。私自身はいくつかの大病をしたが,幸運にもうつ病になったことはない。だからうつ病について一家言あるわけではない。

しかし自分自身の体験を振り返って,1つのことがこころに浮かび上がった。

私は若いころ,数年大学院で研究に明け暮れ,その後数年間民間企業で製品開発に明け暮れした。この十年余りの期間は,私の人生で最も忙しい時期であったが,自分の力を存分に発揮したいという気持ちが強かったから,朝から夜遅くまで研究や仕事に没頭しても,つらいという気持ちはこれっぽっちも起きなかった。

ただ,大学院時代と民間企業時代で異なっていたのは,それまで頭痛を体験したことがなかったのに,民間企業に入ると毎週末頭痛がすることだった。そのため休日は寝て過ごすことが多かった。不思議なことに月曜日になると,頭痛はきれいさっぱりなくなっていた。

頭痛についてはまあいわゆる週末頭痛のたぐいであろうから,と特に気に留めることもなかった。ところが数年間の民間企業での勤務ののち,ある機会があって教育機関に勤めることになった。そうすると,何の対策もしていないのに頭痛がなくなったのである。その民間企業は働く環境としては,たいへん良いように思っていたから,頭痛の変わり具合については,ずっとどうしたのだろうと思っていた。

昨今働く現場で長時間勤務ののち,精神的やまいを患い,悪くすれば自殺に行きついてしまったというニュースを見かける。これらのニュースと自分の体験を照らし合わせると,傍目にはいい環境であってでも,またある場合には精神的やまいが発症しなくても,別の場合には精神的やまいは発症するということでないかと考えるようになった。

私はその民間企業の作業環境になんら不満はなく,その企業の従業員の扱いにもなんら不満はなかったが,ただそのまま勤めていて精神的やまいは発症しない,と言い切る自信はない。

そして,これは「うつ病九段」の受け売りであるが,精神的やまいは発症して体が少々不調になったくらいでは本人は病院に行く必要性を感じなく,またいったん発症すれば,その人の気持ちの持ちようで治るというたぐいのものではなく,きちんと医師の治療を受けなければ治らないということであるようだ。

(2019年8月3日 土曜日 晴れ)